作業用BGMを流していて、気づいたら音量のつまみが少しずつ上がっていた。
そんな経験があるなら、この記事はちょうど合うはずです。
作業用BGMの適正音量とは、作業の邪魔にならず、長い時間聴いても耳に負担をかけにくい音の大きさのことです。
研究から言える目安は「カフェのざわめき程度(70デシベル)が上限、読み書きの作業ならそれより控えめ」で、イヤホンなら端末の最大音量の60%以下がWHOのすすめる線です。
この記事では、その根拠になる実験と、デシベルの目安、耳を守る聴き方、自分に合う音量の決め方を順番にまとめました。
音量と集中の関係を調べた実験
「BGMはどのくらいの音量がいいのか」でよく引かれるのが、Mehtaらが2012年に発表した実験です(Mehta, Zhu & Cheema, 2012)。
5つの実験で、まわりの環境音の大きさを変えながら、創造的な発想を求める課題の成績を比べています。
結果は、静かな環境(50デシベル)より中くらいの音(70デシベル)のほうが成績が良く、大きな音(85デシベル)になると逆に成績が落ちる、というものでした。
著者らは、ほどよい雑音が頭の処理を少しだけ難しくすることで考え方が抽象寄りになり、発想が広がると説明しています。
85デシベルで下がったのは、うるさすぎると情報を処理する深さそのものが浅くなるから、という見立てです。
ただし、この実験で流したのは音楽ではなく環境音で、課題も発想系です。
「70デシベルの音楽を流せば集中できる」とまでは言えません。
読めるのは、無音が常にベストとは限らないこと、そして音量には上げすぎると逆効果になる上限があること、の2つです。
BGMの効果全般については作業用BGMの効果を研究から整理した記事にまとめたので、この記事では音量の話に絞ります。
音楽の音量で読解の成績が変わった実験
音楽そのものの音量を変えた実験もあります。
Thompsonらは2012年、モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448」をBGMにして、テンポと音量の組み合わせ4通りで読解テストの成績を比べました(Thompson, Schellenberg & Letnic, 2012)。
論文本文によると、音量はヘッドホンの位置で測って60デシベルと72.4デシベル、テンポは110bpmと150bpmです。
無音で同じテストを受けた人たちの成績と比べて、はっきり下がったのは「速くて大きい」(150bpm、72.4デシベル)の組み合わせだけでした。
遅いテンポなら大きめの音量でも、速いテンポでも小さめの音量なら、成績の低下は目立っていません。
歌詞のないピアノ曲でも、テンポと音量が両方そろって上がると、読む作業の邪魔になりうるということです。
ヘッドホンで72デシベルというのは、次の節で見るように、普通の会話(およそ60デシベル)よりひと回り大きい音です。
読み書きの作業でBGMを使うなら、テンポがゆったりした曲を選んで、会話くらいの音量を超えないようにしておくのが、この結果から引ける線です。
デシベルで見る音量の目安
デシベルと言われても、ピンと来ない人のほうが多いと思います。
WHO(世界保健機関)は、身近な音のおおよその大きさを次のように例示しています(WHO「Deafness and hearing loss: Safe listening」)。
| 音の大きさ | 身近な音の例(WHOの例示) | この記事で出てきた数字 |
|---|---|---|
| 30デシベル | ささやき声 | – |
| 40デシベル | 図書館 | – |
| 60デシベル | 普通の会話 | Thompsonらの「小さい音量」(ヘッドホンで60デシベル) |
| 70デシベル | (WHOの表に例示なし) | Mehtaらで成績が良かった音量 |
| 80デシベル | 玄関のチャイム | WHOが大人に示す「週40時間まで」の音量 |
| 85デシベル | 車内で聞く交通量の多い道路 | Mehtaらで成績が落ちた音量 |
| 90デシベル | 叫び声での会話 | – |
こうして並べると、Mehtaらの70デシベルは、普通の会話より大きい音だとわかります。
「BGMは控えめに」という感覚からすると、意外と大きめの数字です。
ただし、これは部屋に流れる環境音の大きさで、イヤホンを通して耳元で鳴らす音とは条件が違います。
耳元で鳴らすなら、次の節で見る耳を守るための目安を先に気にしたほうがいいでしょう。
イヤホンで作業用BGMを聴くときの耳の健康
作業用BGMはイヤホンやヘッドホンで何時間も聴くことが多いので、音量の話は耳の健康と切り離せません。
WHOは、音が大きいほど、また聴く時間が長いほど聴力を損なうリスクが上がるとしたうえで、安全に聴ける時間の目安を示しています(WHO「Deafness and hearing loss: Safe listening」)。
80デシベルなら週に40時間まで、85デシベルなら週に12時間30分まで、90デシベルになると週に4時間までです。
音量が少し上がるだけで、許される時間が一気に短くなります。
この80デシベルで週40時間という数字は、WHOとITU(国際電気通信連合)が2019年に出した、音楽プレーヤーやスマホ向けの安全な聴取の基準にも入っています(WHO-ITU「Safe listening devices and systems」)。
大人向けが80デシベルで週40時間、子ども向けは75デシベルで週40時間です。
平日に1日8時間、イヤホンで作業用BGMを流すと、それだけで週40時間に届きます。
作業用BGMは「1日中つけっぱなし」になりやすい聴き方なので、80デシベルの上限ぎりぎりで流し続けるのは避けたいところです。
具体的な対策として、WHOは次のことをすすめています(前掲のWHOのQ&A)。
- 音量を下げる:端末の音量を最大の60%以下にする。アプリで測るなら平均80デシベル未満に保つ
- 耳に合ったノイズキャンセリングのヘッドホンを使う:うるさい場所で音量を上げずに済むようにする
- こまめに耳を休ませる:大きな音から離れる時間をつくると、耳の中の感覚細胞の回復を助ける
- サインを見逃さない:耳鳴りが続く、高い音や会話が聞き取りにくいと感じたら、専門家に相談する
iPhoneを使っているなら、端末の機能でここを見える化できます。
Appleのサポートページによると、「ヘッドフォン通知」は、過去7日間で80デシベルを超える音を合計40時間聴いた場合などに通知してくれます(Apple サポート「iPhone、iPad、Apple Watchのヘッドフォン通知」)。
設定アプリの「ヘッドフォンの安全性」から、設定したデシベルを超えると音量を自動で下げる機能もオンにできます。
WHOの基準と同じ数字なので、作業用BGMを長く聴く人ほど入れておいて損はない設定です。
なお、ここで紹介したのは聴き方の目安で、聴力の状態を判断するものではありません。
耳に違和感があるときは、自己判断せずに耳鼻咽喉科で相談してください。
作業用BGMの音量の決め方
ここまでの数字を、毎日の音量の決め方に落とし込みます。
研究は「この数字が正解」とまでは教えてくれないので、ここから先は研究の上限を守るための手順で、中身は経験則です。
- ゼロから上げていく:前回の音量のまま再生せず、いったん音量を下げてから、曲がやっと聞き取れるところまで上げる。前回の音量から始めると、耳が慣れたぶん大きめで止まりやすいので
- そこから一段だけ上げて止める:聞き取れるぎりぎりの音量だと、今度は「聴こう」として注意が音楽に向きやすい。一段上げて、意識しなくても鳴っているのがわかる程度にする
- 読み書きの日は会話より小さく:前掲のThompsonらの結果から、文章を読む作業の日は、普通の会話(60デシベル)を超えない音量にとどめる
- イヤホンなら最大の60%を超えない:端末の音量表示で60%を上限にする。うるさい場所で足りないと感じたら、音量ではなくノイズキャンセリングで対処する
- 上げたくなったら休憩の合図にする:作業の途中で音量を上げたくなったら、耳が慣れたか疲れてきたサインと受け取って、いったん止めて耳を休ませる
スピーカーで流すなら、「隣の人に話しかけられたら気づける音量」をひとつの目安にすると迷いません。
スマホの騒音計アプリで部屋の音を測ってみると、自分の感覚と数字がどのくらいずれているかがわかります。
ただしアプリの数値は端末によって誤差があるので、あくまで目安として見てください。
音量と並んで、曲の選び方も関わってきます。
前掲のThompsonらの実験では、テンポが遅ければ大きめの音量でも成績の低下は目立ちませんでした。
音量を下げると物足りなく感じる人は、テンポのゆったりした曲に替えるほうが、音量を上げるより筋がいい選択です。
雨音やカフェの店内音のような環境音を使う場合は、環境音BGMの記事も参考になるはずです。
小さめの音量で流しやすい作業用BGM
音量を絞って流す前提で、静かさを打ち出している3つを選びました。
どれもインスト中心で、タイトルや概要欄、曲名に「quiet」「音量小さめ」「Soft」といった言葉が入っているものです。
1. SILEO
音を足すより引く方向で作られた、静かな作業用ジャズを出しているチャンネルです。
「interior jazz for quiet productivity.」は約2時間の1本で、概要欄では抑えたサウンドデザインで集中を支える環境をつくる、という方針が書かれています。
音量を絞って部屋の空気に混ぜる使い方と相性がよさそうです。
2. Nekocha -ネコチャ- ~猫と音楽の癒しチャンネル~
タイトルにそのまま「音量小さめversion」と付いた、約1時間の作業用動画です。
概要欄の曲目には「トロイメライ」や「ユーモレスク」「愛の夢 第3番」といったクラシックの小品が並んでいて、ピアノの演奏が中心です。
タイトルどおり最初から控えめな音量なら、音量を探る手間が少し減ります。
3. 2AM. Records
アルバム「Quiet Workspace: Relaxed Focus Sounds」は、名前どおり静かな仕事場を想定したインスト集です。
「Gentle Office Flow」「Soft Focus Flow」など、曲名にも穏やかさを示す言葉が並ぶ10曲で、全体で20分ほどにまとまっています。
音量の決め方を試すときの「1セット」にちょうどいい長さです。
作業用BGMの音量のよくある質問
Q. 勉強中の音楽は、どのくらいの音量が合いますか?
A. 教科書や問題文を読む勉強なら、普通の会話(60デシベル)を超えない程度が目安です。
音楽のテンポと音量がどちらも上がった条件で、読解の成績が下がった実験があります(前掲のThompsonら)。
テンポのゆったりした歌詞なしの曲を、控えめな音量で流すのが無難です。
Q. 70デシベルが集中にいいというのは本当ですか?
A. 70デシベル程度の環境音で、発想系の課題の成績が静かな環境より良かった実験はあります(前掲のMehtaら)。
ただし音楽ではなく環境音の実験で、課題も発想系に限られます。
「70デシベルまでなら上げても逆効果になりにくい上限」くらいに読むのが正確です。
Q. イヤホンで1日中作業用BGMを聴いても大丈夫ですか?
A. WHOの目安では、80デシベルなら週40時間までです。
平日8時間ずつ聴くとそれだけで週40時間に届くので、端末の音量を最大の60%以下にして、こまめに耳を休ませるのがWHOのすすめる聴き方です。
耳鳴りが続くなど気になる症状があれば、耳鼻咽喉科に相談してください。
Q. 小さい音量だと物足りないときはどうしたらいいでしょう?
A. 音量を上げる前に、曲を替えてみてください。
音数の多い曲は小さくすると細部が聞こえず物足りなく感じやすいので、音数の少ないピアノやジャズに替えると、同じ音量でも満足感が変わります(これは経験則です)。
周りの雑音に負けて上げたくなる場合は、ノイズキャンセリングで雑音側を減らすのが耳にもやさしい方法です。
作業用BGMの音量は「上限」から決める
作業用BGMの音量は、ちょうどいい1点を探すより、超えない上限を先に決めるほうが迷いません。
部屋で流すならざわめき程度の70デシベル、読み書きの日は会話の60デシベル、イヤホンなら最大音量の60%。
この3つを守ったうえで、あとは自分が気にならない音量に合わせれば十分です。
音量を決めたら、流す曲も選んでおきましょう。
作業に合う定番は作業用BGMのおすすめをまとめた記事、長く流しっぱなしにしたい日は長時間流せる作業用BGMの記事、BGMを出しているアーティストはカフェBGMアーティスト一覧からどうぞ。
この記事を書いた人
Cafe BGM Playlister 編集部
カフェBGMと作業用BGMの専門メディア「Cafe BGM Playlister」の編集部です。
運営元のレーベルでカフェBGMアーティストの楽曲制作と配信に携わっていて、この記事で紹介したアーティストの一部も当レーベルの所属です。
選曲は、収録曲や再生時間、公開されている情報を編集部が確かめたうえで選んでいます。
