ヒーリングミュージックとは|癒し音楽の歴史と研究で言えること

疲れた日の夜に「ヒーリングミュージック」で検索すると、ピアノと鳥の声の動画から「自律神経を整える」とうたう長尺の動画まで、いろんなものがずらっと並びます。
どれも同じ「癒し」の看板を掲げていますが、中身も言っていることもかなりバラバラです。

ヒーリングミュージック(癒し音楽)とは、気持ちを落ち着かせたり、リラックスしたりするために作られた音楽のことで、1960〜70年代に欧米で生まれたニューエイジミュージックの流れをくんでいます。
この記事では、ヒーリングミュージックの成り立ちと、日本で「癒し」がブームになった経緯、音の特徴、研究で言えることを順番に確かめます。
後半では、カフェ時間に流しやすい4本と、看板の読み方を紹介します。

ヒーリングミュージックのルーツはニューエイジ

ヒーリングミュージックの元をたどると、ニューエイジミュージックというジャンルに行き着きます。
ニューエイジは、ひらめきやリラックス、前向きな気分をもたらすことを狙った音楽で、ヨガやマッサージ、瞑想、読書のときのストレス対策として聴かれてきました(New-age music – Wikipedia)。
1960年代から70年代はじめにかけて、ヨーロッパとアメリカで形になっていったジャンルです。

初期の作品としては、Tony Scottの「Music for Zen Meditation」(1964年)が最初のニューエイジ作品とされることがあり、Steven Halpernの「Spectrum Suite」(1975年)がムーブメントの出発点になった1枚として紹介されています(前掲のNew-age music – Wikipedia)。
1987年にはグラミー賞に最優秀ニューエイジアルバム部門ができ、日本からは喜多郎がこのジャンルの代表的な音楽家として知られるようになりました。
初期のニューエイジを「healing music」と呼んだ音楽家もいたそうで、「癒しのための音楽」という発想はジャンルの最初期からあったことになります。

日本語版Wikipediaでは、ヒーリングミュージックを、人を癒やす効果を持つニューエイジミュージックのうち、世界と日本で聴かれている音楽、と説明しています(ヒーリングミュージック – Wikipedia)。
つまり、ニューエイジという大きなくくりの中で、とくに「癒し」の役割を期待されている部分を指す呼び名と考えると、位置づけがつかみやすくなります。

日本で「癒し」がブームになった1999年

日本でヒーリングミュージックが一気に広まったきっかけは、1999年の坂本龍一「energy flow」です。
この曲を収めたシングル「ウラBTTB」は、三共「リゲインEB錠」のCMソングとして流れたことで「癒しの音楽」として知られるようになり、インストゥルメンタルのシングルとして初めてオリコン週間1位を取りました(ウラBTTB – Wikipedia)。
売上はオリコン調べで累計155万枚です。

同じ1999年には、「癒し」という言葉が新語・流行語大賞のトップテンに入っています。
選考の解説文は、10年前に「24時間戦エマスカ」で大ヒットしたリゲインのCMが、坂本龍一のピアノソロとともに「この曲をすべての疲れている人へ」と呼びかけるようになったことを挙げて、「『癒し』はもはや国民的テーマ」と書きました(第16回 1999年 新語・流行語大賞 – 自由国民社)。
リゲインのCMの呼びかけが、バブル期の「24時間戦エマスカ」から「疲れている人へ」に変わったこと自体が、時代の変わり目として受け止められたわけです。

ブームは翌年も続きます。
2000年には、CMやテレビ、映画で使われた曲を集めたコンピレーション「image」がオリコン総合1位を取り、累計約145万枚を売りました(image (コンピレーション・アルバム) – Wikipedia)。
同じ年の「feel」とあわせて、ヒーリングミュージックブームの火付け役とされています。

ヒーリングミュージックの音の特徴

ヒーリングミュージックには、楽譜の上での決まりがあるわけではありません。
それでも、ルーツのニューエイジにはわかりやすい傾向があります(前掲のNew-age music – Wikipedia)。

  • 楽器:フルートやピアノ、アコースティックギターなどの生楽器と、シンセサイザーの長く伸ばした和音(パッド)の両方が使われる
  • 展開:瞑想に使うなら、急に大きな和音が鳴ったり即興で崩したりせず、同じ強さと手ざわりが続くことが求められる
  • 自然の音:波や雨、滝の音、鳥や動物の声を楽器に重ねる手法がよく使われる
  • 声:もともと歌は少なく、演奏家の多くは楽器奏者。歌が入る場合も、詠唱のような声が中心

いま配信サービスで「Healing」と名の付くアルバムを見ても、ピアノやギターのインストに雨音や鳥の声を重ねたものがたくさんあります。
展開が少なく、急に大きな音が鳴らないという性質は、ニューエイジから受け継いだ部分と見てよさそうです。

似た立ち位置の音楽にアンビエントがあります。
アンビエントは「聴き込んでも聞き流してもいい」という聴き方の設計でくくった呼び名で、ヒーリングミュージックは「癒し」という目的でくくった呼び名です。
くくり方が違うので、静かなシンセの曲が両方の棚に並ぶこともよくあります。
アンビエントの成り立ちや日本の環境音楽については、アンビエントの記事のほうで詳しく書いています。

研究で言えること、言えないこと

音楽を聴くとストレスが和らぐのか、という問いには、まとまった研究があります。
de Witteらは2020年、ランダム化比較試験104件(参加者9,617人)を集めてメタ分析を行い、音楽を聴くことが心拍数や血圧などの体の指標と、不安や落ち着かなさなどの気持ちの指標の両方で、ストレスを下げる方向に働いていたと報告しました(de Witte et al., 2020)。
効果の大きさは、体の指標でd=0.380、気持ちの指標でd=0.545です。
含まれる研究には、手術の前後や病院のほか、職場や大学で行われた実験も入っています。

ヒーリングミュージック目線で面白いのは、音楽の選び方による差がはっきり出なかったことです。
同じメタ分析では、研究者が用意したリラックス用の音楽と、参加者が自分で選んだ音楽とで、効果に有意な差は見られませんでした。
歌詞の有無でも差は出ていません。
一方で、1分間に60〜80拍のゆっくりしたテンポの音楽は、気持ちの指標で効果が大きめに出る傾向がありました(p=0.064で、統計的に有意とまでは言えない水準です)。

ただし、このメタ分析の研究はほとんどが短期間で、1回だけ聴いた直後の変化を測ったものです。
長く聴き続けたときの効果はあまり調べられていない、と著者たち自身が書いています。
「毎日聴けば体質が変わる」のような話は、この研究からは言えません。

「癒しの音なら何でも同じように効く」とも限りません。
Thomaらは2013年、60人の女性に、ストレステストの前にリラックス用の音楽(Allegriの「Miserere」)、さざ波の音、無音のどれかを聴いてもらいました(Thoma et al., 2013)。
ストレスホルモンのコルチゾールは音楽の条件でいちばん高く、さざ波の条件でいちばん低く出ています。
その一方で、自律神経の働きを映す唾液の酵素は、音楽を聴いた人のほうが無音の人より早く元の値に戻りました。
心拍数や本人が感じたストレスには、条件による差がありませんでした。
「癒し」と一口に言っても、測る指標によって結果の向きが変わるわけです。

2つの研究を合わせて言えるのは、ゆっくりした音楽を聴くとその場の緊張がほぐれやすい、という程度のことです。
病気を治す、症状を改善するといった治療効果は、これらの研究が示したものではありません。
体や心の不調が続いているなら、音楽で様子を見るより先に医療機関に相談してください。
「α波が出る」という宣伝の中身はα波音楽の記事で、左右の耳に違う音を流すタイプはバイノーラルビートの記事で検証しています。

実際に聴くなら、カフェ時間に流しやすい4本

ここからは、ブームの原点と、いまカフェ時間に流しやすいヒーリング系の音源を紹介します。
眠るための音源ではなく、起きている時間にコーヒーと一緒に流せるものを選びました。

1. 坂本龍一「energy flow」

  • ピアノソロ
  • 静かで内省的
  • ひと息つく時間に

日本のヒーリングブームの原点を一度聴いておくなら、まずこの曲です。
Warner Music Japanの公式チャンネルで公開されている、5分ほどのピアノソロです。
作業のBGMとして長く流すより、コーヒーを淹れて手を止める5分に合わせると、この曲が「疲れている人へ」と届けられた経緯ともつながります。

2. Soothing Relaxation(Peder B. Helland)「Sunny Mornings」

  • ピアノとギター
  • 鳥の声入りで明るめ
  • 朝のカフェ時間に

ニューエイジ直系の「楽器に自然の音を重ねる」作りを、いまのYouTubeで確かめられる1本です。
作曲家Peder B. Hellandの曲を公開しているチャンネルで、概要欄には本人の作曲によるピアノとギターの曲に、鳥のさえずりを重ねたと書かれています。
長さは約3時間で、タイトルどおり朝の時間に流しっぱなしにしやすい長さです。

3. Creamy Panda「Cafe Music – Healing Tunes for a Calm and Relaxed Morning」

  • カフェジャズ
  • 朝のやわらかい空気
  • 朝のひと休みに

「Healing」の看板をカフェジャズの側から掲げた1枚で、ピアノソロやシンセとはまた違う癒し方の例になります。
「Smooth Jazz for Quiet Mornings」「Cozy Acoustic Breakfast」など、朝とカフェを意識した曲名の10曲(約32分)が並び、曲名を見るとサックスやギターの曲も入っています。
ジャンル表記はインストゥルメンタルなので、歌詞が気になる人でも流しやすいはずです。

4. Jaspresso「癒しのピアノ音楽~朝カフェで癒しのBGM~」

  • ピアノ
  • 雨の日モチーフの曲も
  • 朝や雨の日のカフェ時間に

日本のブームを形づくったピアノのインストと、自然の音の組み合わせを、カフェBGMの形で聴ける1枚です。
「朝カフェのひととき」「朝カフェと木漏れ日」などの曲から始まり、後半の7曲は曲名に「(Rain)」と付いた、雨の日をイメージした曲になっています。
10曲で約26分と短めなので、朝のコーヒー1杯ぶんに合わせやすい長さです。

「癒し」の看板の読み方と流し方

YouTubeでヒーリングミュージックを探すと、「自律神経が整う」「DNAを修復する」「不眠を改善する」のように、体への効果をタイトルに書いた動画がたくさん出てきます。
前の節で見たとおり、研究で言えるのは「ゆっくりした音楽で、その場の緊張がほぐれやすい」くらいまでです。
特定の周波数や特定の動画にだけ治療のような効果がある、という話は、この記事で確認した研究からは出てきません。

なので、効能の文句ではなく、次のような中身を見て選ぶほうが、外れを引きにくくなります。
どれも編集部の経験則です。

  • テンポ:ゆっくりした曲を選ぶ。タイトルにBPMが書かれていることは少ないので、ピアノソロやバラード調、「Slow」「Calm」などの曲名を手がかりにする
  • 音の種類:ピアノ、ギター、シンセ、自然の音のどれが落ち着くかは人によって違う。前述のde Witteらのメタ分析でも、用意された音楽と本人が選んだ音楽の差は出ていないので、好みで選んでいい
  • 長さと広告:途中で広告が入ると気分が切れる。長く流すならアルバムや配信サービスのほうが扱いやすい(詳しくは広告なしでBGMを流す方法)
  • 音量:癒し目的なら、会話や考えごとの邪魔にならない小さめの音量にする(目安はBGMの音量の記事)

カフェ時間に流すなら、朝はピアノやギター、夜はもう少し落とした音、と時間帯で分けると、選曲がまとまりやすくなります。
朝の選曲は朝カフェ音楽の記事、夜に気持ちを切り替えたいときはナイトルーティンのBGMの記事が参考になります。

ヒーリングミュージックのよくある質問

Q. ヒーリングミュージックとは何ですか?

A. 気持ちを落ち着かせたり、リラックスしたりするために作られた音楽のことです。
1960〜70年代に欧米で生まれたニューエイジミュージックの流れをくんでいて、日本では1999年の坂本龍一「energy flow」のヒットと「癒し」ブームをきっかけに広まりました。

Q. ヒーリングミュージックにはどんな効果がありますか?

A. 音楽を聴くことでその場のストレスの指標が下がった、というメタ分析はあります(前掲のde Witte et al., 2020)。
ただし調べられているのは主に1回聴いた直後の変化で、病気の治療や症状の改善を示したものではありません。
不調が続くときは医療機関に相談してください。

Q. ヒーリングミュージックとアンビエントは何が違いますか?

A. くくり方が違います。
ヒーリングミュージックは「癒し」という目的で、アンビエントは「聴き込んでも聞き流してもいい」という聴き方の設計でくくった呼び名です。
重なる曲も多く、静かなシンセの曲はどちらの棚にも並びます。

Q. 作業中に流してもいいですか?

A. 流して大丈夫です。
ヒーリング系は瞑想向けの作りを受け継いでいて、展開が少なく急に大きな音が鳴らない曲が多いので、BGMとして扱いやすい音楽です。
作業向けの選び方は作業用の環境音の記事やカフェピアノBGMの記事にまとめています。

ヒーリングミュージックとの付き合い方

ヒーリングミュージックは、ニューエイジに生まれて、日本では1999年の「疲れている人へ」というメッセージとともに広まった音楽です。
研究で言えるのは、ゆっくりした音楽がその場の緊張をほぐしやすい、というところまで。
効能の看板より、テンポや音色、音量といった中身で選んで、コーヒーを飲む時間に気軽に流すのがちょうどいい付き合い方だと思います。

落ち着いた音の幅を広げたいときは、チルミュージックの解説記事やカフェBGMアーティスト一覧もどうぞ。

この記事を書いた人

Cafe BGM Playlister 編集部

カフェBGMと作業用BGMの専門メディア「Cafe BGM Playlister」の編集部です。
運営元のレーベルでカフェBGMアーティストの楽曲制作と配信に携わっていて、この記事で紹介したアーティストの一部も当レーベルの所属です。
選曲は、収録曲や再生時間、公開されている情報を編集部が確かめたうえで選んでいます。

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