イージーリスニングとは|ムード音楽の歴史とカフェBGMでの使い方

ストリングスがふわっと広がって、知っている映画音楽やヒット曲のメロディが、角の取れたアレンジで流れてくる。
昔の喫茶店や、夜のFMラジオで流れていたあの感じの音楽を、日本ではよく「イージーリスニング」や「ムード音楽」と呼んできました。

イージーリスニングとは、1950年代から70年代にかけてアメリカを中心に人気を集めた、オーケストラによるスタンダード曲やヒット曲のインスト演奏を中心にした、気軽に聴ける音楽のジャンルとラジオの放送スタイルのことです。
この記事では、イージーリスニングという呼び名の意味、アメリカと日本でどう広まったのか、BGMやスムースジャズとの違い、いまのカフェBGMとのつながりと使い方までまとめました。
ジャズ寄りの大人のBGMについてはスムースジャズの解説記事に分けてあるので、こちらはイージーリスニングというジャンル名の話に絞っています。

イージーリスニングという呼び名の意味

名前のとおり、「気楽に(easy)聴ける(listening)」音楽、というのが出発点です。
英語版Wikipediaでは、1950年代から70年代に最も人気があったポピュラー音楽のジャンルであり、ラジオの放送スタイルでもあった、と説明されています(Easy listening – Wikipedia)。
つまりイージーリスニングは、ジャンル名とラジオの編成方針の名前という、2つの意味を持つ言葉です。

中身としては、スタンダード曲のインスト録音、当時のヒット曲、ロックではない歌もの、ロックのヒット曲をオーケストラでカバーしたもの、までを含みます(前掲のEasy listening – Wikipedia)。
音の面でいちばん目立つのはストリングスです。
1930年代のダンスバンドやハリウッド黄金期の映画音楽で使われていた弦楽器の厚い響きが、ポピュラー音楽にそのまま持ち込まれた形になっています(同前)。

日本語では「ムード音楽」という呼び方もよく使われます(イージーリスニング – Wikipedia)。
イージーリスニングとムード音楽はほぼ同じものを指す、と覚えておけば困ることはまずありません。

アメリカで広まった1950年代から70年代

イージーリスニングが勢いを持っていた時代は、チャートの名前からもたどれます。
アメリカの音楽誌Billboardは1961年7月17日に「Easy Listening」という名前のチャートを始めました。
このチャートは途中で何度か名前を変えつつ、1979年に「Adult Contemporary」へ改名され、いまも続いています(Adult Contemporary (chart) – Wikipedia)。
大人向けのポップスのチャートの源流が、イージーリスニングだったわけです。

この時代の顔ぶれとしては、まずイギリスで活躍したMantovaniがいます。
編曲家Ronald Bingeが考えた「カスケーディング・ストリングス」という、弦が滝のように重なっていく響きがトレードマークでした。
1959年にはアメリカのアルバムチャートのTop 30に6枚を同時に送り込んでいます(Mantovani – Wikipedia)。
コメディアンとして有名なJackie Gleasonもムード音楽のアルバムを出していて、最初の10枚がゴールドディスクになりました。
本人は狙いを「決して出しゃばらず、それでいて場を整える音楽の壁紙」と語っています(前掲のEasy listening – Wikipedia)。

ジャンルの頂点を象徴する1曲が、フランスのPaul Mauriatの「Love Is Blue(恋はみずいろ)」です。
もとは1967年のユーロビジョン・ソング・コンテストで歌われた曲で、Mauriatはこれをオーケストラのインストに仕立てて1968年1月に出しました。
このインスト版が、Billboard Hot 100で1968年の2月から3月にかけて5週連続の1位、Easy Listeningチャートでは11週の1位を取ります。
フランスのアーティストの録音がHot 100の1位になったのは、これが初めてでした(L’amour est bleu – Wikipedia)。

ラジオの側では、「ビューティフル・ミュージック」と呼ばれる、ほぼインストだけで穏やかな曲を流し続ける放送スタイルが、1950年代後半から80年代にかけて北米で広がりました。
インストと歌ものの比率はおおむね7〜8割対2〜3割で、広告も少なめに抑えるのが特徴です(Beautiful music – Wikipedia)。
この放送スタイルもイージーリスニングも、その後はソフトなアダルト・コンテンポラリー(大人向けの落ち着いたポップス)の放送スタイルに置き換わっていきます(前掲のEasy listening – Wikipedia)。

日本では「ムード音楽」として広まった

日本でイージーリスニングが大流行したのは、1960年代から70年代にかけてです。
日本語版Wikipediaは、高度経済成長で全国に団地が建ち並んだ時代に、この音楽が「文化的な生活様式にフィットし、気持ちを豊かにする音楽」としてもてはやされた、と説明しています(前掲のイージーリスニング – Wikipedia)。
代表格として名前が挙がるのは、ポール・モーリア、レイモン・ルフェーブル、フランク・プゥルセルといった、フランスのオーケストラです(同前)。

なかでもポール・モーリアの人気は長く続きました。
1969年の初来日から、日本での公演は約870回にのぼります。
1970年代を中心にNHKラジオ第1放送でもさかんに流され、テレビドラマやラジオ番組のテーマ曲としても使われました(ポール・モーリア – Wikipedia)。
手品の伴奏でおなじみの「オリーブの首飾り」も、ポール・モーリアの演奏で知られる曲です(同前)。

夜のFMラジオも、日本のイージーリスニングを語るときに外せません。
1967年7月に始まった「JET STREAM」は、イージーリスニング系の曲を全編にわたって流す番組で、初代の語り手の城達也さんは1994年12月まで27年以上担当しました(JET STREAM – Wikipedia)。
「イージーリスニング=夜のFMで流れていた音楽」というイメージを持っている人が多いのは、この番組の影響が大きいと考えられます。

BGMやラウンジ、スムースジャズとの違い

イージーリスニングは、店内BGMやエレベーターミュージックと一緒くたにされがちです。
ただ、英語版Wikipediaは、似た場所で流れていたラウンジミュージックと混同されやすいとしたうえで、イージーリスニングは背景の音としてではなく、楽しんで聴くために作られていた、と区別しています(前掲のEasy listening – Wikipedia)。
店舗やオフィスに背景音楽を配信したMuzakのような「空間の設備としての音楽」の歴史は、カフェミュージックの記事にまとめています。
音の雰囲気は近くても、楽しんで聴くための音楽として作られていた点に、イージーリスニングの側の特徴があります。

とはいえ、境目はかなりあいまいです。
ビューティフル・ミュージックの解説でも、イージーリスニング、エレベーターミュージック、ムード音楽、Muzakは大きく重なり合うものとして並べられています(前掲のBeautiful music – Wikipedia)。
「楽しむための音楽か、背景のための音楽か」は作り手の狙いの違いで、聴く側から見れば同じ曲がどちらの使われ方もする、というくらいに捉えておくと混乱しません。

スムースジャズとの関係も、ラジオを通してつながっています。
同じ解説によると、いまのスムースジャズのラジオ局は、ビューティフル・ミュージックの放送の組み立てを受け継いでいるそうです(前掲のBeautiful music – Wikipedia)。
音の違いでいえば、イージーリスニングの主役はストリングスを中心にしたオーケストラで、スムースジャズの主役はサックスやギターとR&B寄りのリズムです。
スムースジャズの側の成り立ちはスムースジャズの解説記事に書いています。

いまのカフェBGMとのつながり

オーケストラのムード音楽としてのイージーリスニングは、70年代を過ぎて主役の座を降りました。
一方で、「Easy Listening」という言葉そのものは、いまも配信サービスで普通に使われています。
カフェBGMや作業用BGMのアルバムのタイトルに「Easy Listening」が入っているのを見かけたことがある人も多いはずです。

ただし、いまのタイトルに付く「Easy Listening」は、ジャンル名というより「気楽に流せる」という説明の言葉として使われていることがほとんどです。
中身はストリングスのオーケストラではなく、カフェ向けのジャズやローファイだったりします。
昔のイージーリスニングと音は違っても、「気楽に聴けて、場を整える」という役割はそのまま引き継いでいる、と見ると両者の関係がわかりやすくなります。
いまのカフェで流れている音楽のジャンル全体を知りたい人は、カフェ音楽のジャンル一覧をどうぞ。

イージーリスニングをBGMに使うコツ

使い方のコツは3つあります。

1つ目は、作業中に流すなら歌ものが混ざっていないか確認すること。
前に書いたとおり、イージーリスニングにはロックではない歌ものも含まれます。
歌詞つきの音楽で読解の成績が下がった実験もあるので(Perham & Currie, 2014)、読み書きの作業にはインストだけのアルバムを選ぶのが無難です。

2つ目は、昔のオーケストラものは「聴く時間」に、いまの「Easy Listening」系のアルバムは「作業の時間」に分けること。
ポール・モーリアのような往年の名演は、知っているメロディが多いぶん、つい耳がそちらに向きます。
コーヒーを淹れて一息つく時間に流すと、ジャンル本来の「楽しんで聴く音楽」として味わえる、というのが編集部の経験則です。
休憩の時間の選曲はコーヒーブレイクのBGMの記事にもまとめています。

3つ目は、音量をカフェのざわめき程度に抑えること。
ストリングスが盛り上がる場面で音が前に出すぎないよう、静かな部分ではなく盛り上がる部分に合わせて音量を決めておく、というのが編集部の経験則です。
音量の目安の決め方はBGMの音量の記事に書いています。

イージーリスニングを実際に聴くなら

ジャンルの象徴になった1曲と、いま「Easy Listening」の名前で出ているカフェ向けのアルバムを3枚並べます。

1. Paul Mauriat「Love Is Blue」

  • イージーリスニングの代表曲
  • ストリングスが華やか
  • ジャンルの入口に

イージーリスニングというジャンルを1曲で知るなら、やはりこの曲が入口になります。
動画は、Hot 100で1位を走っていた1968年2月18日に、アメリカのテレビ番組「The Ed Sullivan Show」で演奏したときのもので、番組の公式チャンネルが公開しています。
音源だけで聴きたい人は、YouTubeの自動生成チャンネル(Paul Mauriat – Topic)でも聴けます。

2. Lofi Jazz Terrace

  • ローファイジャズ
  • 気楽に流せる
  • 午後のひと休みに

「Easy Listening」という言葉を、いまのローファイジャズの側から使うとこうなる、という1枚です。
アルバム「Afternoon Easy Listening」は全10曲のインストで、「カフェ気分 -ゆったり時間-」のような曲名が並び、タイトルどおり午後に流しっぱなしにする用途に向いています。

3. Coffee Shop Music

  • カフェジャズ
  • 軽やかで邪魔しない
  • 長めの作業時間に

昔のムード音楽が担っていた「場を整える」役割を、コーヒーショップのジャズに置き換えたような名義です。
アルバム「Coffee Shop Music Easy Listening Jazz」は全30曲で合計80分あまりあるので、1時間を超える作業でも通しで流せます。

4. FOREST JAZZ CAFE

  • イージーリスニングジャズ
  • のんびりした春の午後
  • 休日のカフェタイムに

イージーリスニングを「のんびりした午後の音楽」という方向に寄せたのが、このアルバムです。
「Easy Listening Jazz – Lazy Spring Afternoon At the Cafe Terrace」は全10曲のインストで、タイトルに春の午後のカフェテラスという場面がはっきり書かれているので、休日の昼下がりに合わせやすい1枚です。

イージーリスニングのよくある質問

Q. イージーリスニングとはどんな音楽ですか?

A. 1950年代から70年代にかけてアメリカを中心に人気を集めた、オーケストラによるスタンダード曲やヒット曲のインスト演奏を中心にした、気軽に聴ける音楽のジャンルです。
ラジオの放送スタイルの名前でもあり、日本では「ムード音楽」とも呼ばれます。

Q. イージーリスニングとムード音楽は同じですか?

A. ほぼ同じものを指す呼び方です。
日本ではポール・モーリアやレイモン・ルフェーブルのようなオーケストラのインストが、イージーリスニングやムード音楽の名前で親しまれてきました。

Q. イージーリスニングの代表曲は?

A. よく挙がるのはPaul Mauriatの「Love Is Blue(恋はみずいろ)」です。
1968年にBillboard Hot 100で5週連続の1位を取り、日本でもポール・モーリアは1969年の初来日から約870回の公演を重ねるほど親しまれました。

Q. イージーリスニングは作業用BGMに向いていますか?

A. インストを選べば向いている部類です。
ただ、ジャンルには歌ものも含まれるので、読み書きの作業にはインストだけのアルバムを選んでください。
知っているメロディの多い往年の名演は、作業より休憩の時間に回すほうが落ち着いて流せます。

イージーリスニングを流すなら

ジャンルの原点を知るならPaul Mauriatの「Love Is Blue」を1曲、普段のBGMには「Easy Listening」の名前がついたインストのアルバムを、ざわめき程度の音量で流す。
昔のムード音楽といまのカフェBGMは、この2つを使い分けるだけで両方楽しめます。

ジャズ寄りの大人のBGMを探すならスムースジャズの解説記事、ジャンルの全体像はカフェ音楽のジャンル一覧、アーティストから探すならカフェBGMアーティスト一覧をどうぞ。

この記事を書いた人

Cafe BGM Playlister 編集部

カフェBGMと作業用BGMの専門メディア「Cafe BGM Playlister」の編集部です。
運営元のレーベルでカフェBGMアーティストの楽曲制作と配信に携わっていて、この記事で紹介したアーティストの一部も当レーベルの所属です。
選曲は、収録曲や再生時間、公開されている情報を編集部が確かめたうえで選んでいます。

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