ホテルのラウンジや夜のカフェで、サックスがなめらかにメロディを歌って、その下でベースとドラムがゆったり揺れている。
ジャズっぽいけれど、難しい即興で耳を引っ張っていくわけでもない。
ああいう音楽に名前をつけるなら、たいていスムースジャズです。
スムースジャズとは、1970年代のフュージョンから派生した、R&Bやポップスの要素が強く、即興よりもメロディとグルーヴを聴かせるジャズのサブジャンルです。
この記事では、スムースジャズがどう生まれたのか、アメリカのラジオとの深い関係、フュージョンとの違い、音の特徴、大人のカフェBGMとしての使い方までまとめました。
「カフェで流れる落ち着いたジャズ」全般の話はカフェジャズの解説記事にあるので、こちらはスムースジャズというジャンルの話に絞っています。
スムースジャズはどうやって生まれたのか
スムースジャズの親にあたるのは、1970年代のフュージョンです。
フュージョンは、ジャズの演奏技術や即興に、エレキ楽器を使ったロックやファンクの感覚を混ぜようとした動きでした。
そのフュージョンから、R&Bやポップスの聴きやすさに寄せた流れが枝分かれして、のちにスムースジャズと呼ばれるようになります(Smooth jazz – Wikipedia)。
源流の曲としてよく挙がるのは、Bob Jamesの「Nautilus」(1974年)、Grover Washington Jr.の「Mister Magic」(1975年)、George Bensonの「Breezin’」(1976年)あたりです(前掲のSmooth jazz – Wikipedia)。
なかでもGeorge Bensonのアルバム「Breezin’」は、ジャズのアルバムなのにポップとR&Bのチャートで1位を取り、トリプルプラチナまで売れました(Breezin’ – Wikipedia)。
ジャズがここまで一般のリスナーに届く、という実例になった1枚です。
ただ、この時点ではまだ「スムースジャズ」という呼び名はありません。
ジャンル名として定着したのは1980年代に入ってからです(前掲のSmooth jazz – Wikipedia)。
名前より先に音が広まって、あとからラベルが追いついた順番になります。
アメリカのラジオが育てたジャンル
スムースジャズを語るうえで外せないのが、アメリカのラジオです。
このジャンルは、レコード店の棚というより、ラジオ局の「フォーマット(放送する音楽の方針)」として育ちました。
象徴的なのが、ロサンゼルスのラジオ局KTWVです。
1987年2月14日、この局は「94.7 The Wave」として新しいフォーマットに切り替えました。
当時の名前はNew Adult Contemporary、略してNACです。
はじめはニューエイジやフュージョンも混ざった選曲でしたが、1990年代の初めにはそれらを減らし、コンテンポラリージャズと軽めのR&Bボーカル、大人向けポップスのヒット曲を混ぜる形に落ち着きます。
この混ぜ方が、ラジオでいう「スムースジャズ」の型になりました(KTWV – Wikipedia)。
スムースジャズに「大人のジャズ」というイメージがつきまとうのも、この経緯と無関係ではなさそうです。
フォーマットの名前にそもそも「Adult(大人)」が入っていて、大人のリスナー向けの局として始まっているからです。
ラジオフォーマットとしてのスムースジャズは、1980年代から90年代にかけて人気が伸び、2000年代に入ると徐々に下火になります。
2009年までに、ニューヨーク、ワシントンDC、ボストンなどの多くの局がこのフォーマットをやめました(前掲のSmooth jazz – Wikipedia)。
KTWV自身も2010年に歌もの中心へ寄せ、インストの曲数を大きく減らしています(前掲のKTWV – Wikipedia)。
ラジオの主役ではなくなったものの、スムースジャズという呼び名と音のスタイルは、いまもプレイリストやBGMの世界で普通に使われています。
スムースジャズとフュージョンの違い
スムースジャズはフュージョンから生まれたので、境目はけっこうあいまいです。
同じアーティストが両方の文脈で紹介されることもよくあります。
そのうえで、どこに重心があるかで分けると整理しやすくなります。
- フュージョン:ジャズの演奏技術と即興に、ロックやファンクの電気楽器のサウンドを混ぜた音楽。演奏そのもののスリルを聴かせる方向
- スムースジャズ:フュージョンからR&Bやポップスの聴きやすさに寄せた音楽。即興よりリズムとグルーヴ、全体の洗練された響きを聴かせる方向
ざっくり言うと、フュージョンは「演奏を聴く」音楽で、スムースジャズは「流しっぱなしにして場の雰囲気を作る」音楽です。
フュージョンの長いソロは、聴き込むと楽しいぶん、注意を持っていかれます。
スムースジャズは個々のパートより全体の響きを重視するので(スムーズジャズ – Wikipedia)、背景に置いても主張しすぎません。
ちなみに日本語では「スムーズジャズ」と「スムースジャズ」の両方の表記が使われていて、指しているものは同じです。
スムースジャズの音の特徴
スムースジャズとして流れている曲には、だいたい次の共通点があります(テンポと楽器は前掲のSmooth jazz – Wikipediaより)。
- 遅めのテンポ:よく流れる曲は90〜105BPMあたりに集まっている。歩くよりややゆっくりくらいの、急かされない速さ
- メロディを歌う楽器が主役:いちばん多いのはサックス(特にソプラノとテナー)で、ギターがそれに続く
- R&B由来のグルーヴ:ファンク寄りのリズムやシンセサイザーが下支えして、体が軽く揺れる程度のノリが続く
- 洗練された音作り:ざらついた録音の味を残すLoFiとは反対で、きれいに整えた音で鳴る
サックスが主役になりやすいのは、このジャンルの大きな特徴です。
代表的なアーティストとして名前が挙がる人にも、Kenny G、Grover Washington Jr.、David Sanbornとサックス奏者が並びます(前掲のSmooth jazz – Wikipedia)。
サックスの音色に絞った選曲は、サックスジャズBGMの記事にまとめています。
大人のカフェBGMとしての使い方
スムースジャズは、もともと流しっぱなしにされることを前提に選曲されてきた音楽です。
なので、カフェや家でBGMにするのは、ジャンルの成り立ちからしても自然な使い方で、使うときのコツは3つあります。
1つ目は、時間帯を夕方から夜に寄せること。
遅めのテンポと、ラウンジやバーを思わせる磨かれた音は、朝の目覚ましより一日の終わりのほうになじみやすい、というのが編集部の経験則です。
夜のカフェ全体の選曲は夜カフェBGMの記事に、ラウンジ寄りの音はラウンジジャズBGMの記事にあります。
2つ目は、作業中に流すなら歌ものが混ざっていないか確認すること。
前の節のとおり、ラジオのスムースジャズはR&Bのボーカル曲も混ぜて流す形で育ちました。
そのため、「スムースジャズ」と名前のついたプレイリストでも歌ものが入っていることがあります。
読み書きの作業は頭の中で言葉を使うので、歌詞が耳に入ると取り合いになりやすく、実際に歌詞つきの音楽で読解の成績が下がった実験もあります(Perham & Currie, 2014)。
作業用なら、インストだけのアルバムを選ぶのが無難です。
3つ目は、音量を控えめにすること。
カフェのざわめきくらいの音(70デシベル)で創造的な課題の成績が上がり、85デシベルでは下がった、という実験があります(Mehta, Zhu & Cheema, 2012)。
音楽そのものを使った実験ではありませんが、サックスのメロディは前に出やすい音なので、ざわめき程度より上げないくらいがちょうどいい目安になります。
スムースジャズを実際に聴くなら
歴史の節に出てきた定番を1曲と、いまBGMとして流しやすいスムースジャズのアルバムを3枚並べます。
1. George Benson「Breezin’」
ポップとR&Bのチャートで1位を取った同名アルバムの、タイトル曲です。
主役はサックスではなくBensonのギターで、スムースジャズの「メロディ楽器が歌う」形を知るのにちょうどいい1曲です。
YouTubeの公式の自動生成チャンネル(George Benson – Topic)で聴けます。
2. Smooth Jazz Table Mug
名義そのものにスムースジャズを掲げたアーティストです。
アルバム「Coffee Time Smooth Jazz Essentials Chill Music」は40曲入りで、タイトルどおりコーヒーの時間に流しっぱなしにする用途に向いています。
3. Midnight Smooth Jazz Club
深夜のジャズクラブを名義にしたアーティストで、ラジオ時代から続く「大人の夜の音楽」というイメージをそのまま名前にしています。
アルバム「Smooth Jazz Nights」は15曲入りで、夕方以降のカフェや家の照明を落とした時間に合わせやすい1枚です。
4. Lofi Jazz Terrace
スムースジャズをローファイのビートに寄せると、こういう方向になります。
アルバム「Smooth Jazz Lo-Fi Beats」は、タイトルによると「落ち着いたバーで流れていそうなチルアウト系ローファイ」で、磨かれたスムースジャズより少しくすんだ質感が好きな人向けです。
スムースジャズのよくある質問
Q. スムースジャズとはどんな音楽ですか?
A. 1970年代のフュージョンから派生したジャズのサブジャンルで、R&Bやポップスの要素が強く、即興よりメロディとグルーヴを聴かせる音楽です。
テンポは遅めで、サックスやギターがメロディを歌う形が定番です。
Q. スムースジャズとフュージョンはどう違いますか?
A. フュージョンは演奏技術や即興のスリルを聴かせる方向、スムースジャズはR&Bやポップスの聴きやすさに寄せて全体の響きを聴かせる方向です。
スムースジャズはフュージョンから枝分かれしたジャンルなので、境目があいまいな曲やアーティストもあります。
Q. スムースジャズとカフェジャズは同じものですか?
A. 同じではありません。
スムースジャズはアメリカのラジオで育った、歴史のあるジャンル名です。
カフェジャズは「カフェで流すのに向く落ち着いたジャズ」をまとめた通称で、スムースジャズもその中に入りうる、という関係です。
詳しくはカフェジャズの解説記事をどうぞ。
Q. スムースジャズは作業用BGMに向いていますか?
A. インストの曲を選べば向いている部類です。
ただ、ラジオのスムースジャズは歌ものも混ぜて流す形で育ったので、プレイリストによってはボーカル曲が入っています。
文章を読んだり書いたりするときは、インストだけのアルバムを選ぶと安心です。
スムースジャズを流すなら
まずGeorge Bensonの「Breezin’」でジャンルの原点を知って、普段のBGMにはインストだけのスムースジャズのアルバムを、夕方以降にざわめき程度の音量で流す。
大人のカフェBGMとしてのスムースジャズは、これで十分始められます。
サックスの音色をもっと楽しみたいならサックスジャズBGMの記事、ジャズ以外も含めたカフェ音楽の全体像はカフェ音楽のジャンル一覧、アーティストから探すならカフェBGMアーティスト一覧をどうぞ。
この記事を書いた人
Cafe BGM Playlister 編集部
カフェBGMと作業用BGMの専門メディア「Cafe BGM Playlister」の編集部です。
運営元のレーベルでカフェBGMアーティストの楽曲制作と配信に携わっていて、この記事で紹介したアーティストの一部も当レーベルの所属です。
選曲は、収録曲や再生時間、公開されている情報を編集部が確かめたうえで選んでいます。
